燃える男の道


TMver.2017

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目を覚ますと、自分がベッドに横たえられていることに気がついた。
新しいとは言いがたいが、清潔ではあるシーツに包まれている。
まどろみの夢もなく、いきなり現実に放り出された気分で、戸惑いながら周囲を見渡す。僕は一体…?

「目が覚めたようだね。」

頭上から声が降ってくる。目の前にぶら下げた眼鏡以外に個性が見当たらない男性が、こちらを見下ろしている。

「あなたは一体…?」

ニコリと無邪気な笑みをこぼし、彼は、

「1413が目を覚ましたよ!」

と扉の向こうに声を掛けた。
間を置かずドアを開き、現れた男は、彼と全く同じ顔をしていた。髪も顔かたちも、かける眼鏡まで同様のデザインだった。
軽い混乱を覚えた。しかし、彼らは双子なんだろうと自らを納得させる。
自分の脳裏には、過剰に似せた格好をする双子など、コメディアンくらいしか思い当たらないが、まぁ彼らがそうでないという確証はない。
仮に彼らがコメディアンなら何故眠る僕を見守っていたのかの説明が付かないとは思うが。

「1413、直ぐに仲間がやってくるとは思うけど、その前にここがどんなところが簡単に説明しておこう。」

という彼の背後で、どたどたと複数の足音が聞こえ、開け放たれたままのドアを潜って、数人の男が現れた。
眩暈がした。
同じなのだ。最初の双子と顔が。
新たに現れた男は4人。流石に六つ子は非現実的である。有り得ない絵面に気分が悪くなる。

「ちょっと、気分が悪いんで、顔を洗わせて欲しいんだけど。」

そう絞りだすと、男達の中から一人が歩み出し、僕の手を取って案内を始めた。わいわいと思い思いの言葉を同口異音にかける男達の間を抜け、通路に出る。
僕の寝ていた部屋からほど近く、水を湛えた甕の置かれた部屋に通された。

「起き抜けだもんね、顔くらい洗わないと気持ち悪いよね!」

と同じく無邪気な笑顔で男が声を掛けてくる。
誰のせいで気分が悪いと思ってるんだ、と口には出さずにざぶざぶと顔を流すと、いくらか気分がよくなった。
不気味ではあるが、敵対的でないのなら即時の危機にはならないだろうと自分に言い聞かせ、男の手渡す手ぬぐいで顔を乱暴に拭う。
顔を上げると、鏡が目に入り、ついで映りこむ自分の顔が見えた。見えたところで、我慢できず絶叫を上げた。


なぜ、ぼくは、かれらとおなじかおなのか。


違和感、不快感が抑えきれず、叫び声を上げる僕。なぜ、なぜと壊れたレコードの如く繰り返す。うんうんと頷きながら、男が努めて明るい声で宥める。

「君も僕も、O様が造られた兄弟なんだよ。」

僕も最初はそういう反応だったよ、といい更に笑う男。
理解できず、両手を振り回す僕に男は歩み寄った。
固めたこぶしが肩を強かに打ち据えても優しい顔で男は近づく。そして、ゆるりと僕を抱きかかえる。
自分と同じ顔の男に包まれ、違和感は消えないながらも若干落ち着く。手が止まり、荒い息が収まるほどの時間がたつと、彼は丁寧に僕の発した問いの答えを返してくれた。

O(オー)とは、この村を起こした所謂造物主であるということ。彼らは全てOを起点とする兄弟であるということ。
そして僕は、彼ら兄弟の末弟にあたるということだ。僕が1413と呼ばれるなら、始祖たる彼は、ゼロであるOなのか。
目覚めたばかりで何が正常であり異常であるかの判断は付かないが、彼のぬくもりを感じた瞬間に混乱や恐慌が氷解したことを思えば、人ならぬつながりがあるといっても不思議ではないのかもしれない。
同姓の抱擁で安心を覚えるということの是非はこの際置いておいて、同じ起源を持つ兄弟という近しさは謎の安心感の根拠になるのではないかと無批判に感じさせた。
行きと同じく彼に手を引かれるまま、目覚めた部屋に戻ると、更に兄弟は増えていた。
彼らは口々に歓迎の言葉を述べる。
望まれる生を受けたという境遇に、知らず涙が浮かんだ。彼らの家族として生きていくのだと感じた。

「ここで生きていくうえで、何らかの職についてもらうよ。適正を見るために色々と回ってみよう。」

最初に声を掛けてきた兄弟、と思しき人が僕を誘うと共に、懐から眼鏡を取り出した。
かけるのが当たり前という雰囲気なので、かけてみて、直ぐに外した。

「申し訳ないんだけど、なくても見えてるんだ。必要ないよ。」

僕の何気ない一言で、周囲がざわついた。疑問には直ぐ答えが用意された。

「なるほど、珍しいゆらぎを持っているね。」

「ゆらぎ?」

「我々は共通の始祖を持つ生き物だけど、生まれる固体ごとに、若干の違いがあるんだ。それをゆらぎと呼んでいるのさ。」

なるほど、近しい存在であっても個性のようなものはあるということなんだろう。

「視力がいいというのは、聞いたことがない。とても大きなゆらぎだ。」

それでも兄弟は兄弟さ、と続けた。
あまりにも大らかで開かれた胸襟だ。それでも、疑いよりも安心が生まれるのは、彼らが自分と物理的に非常に近い存在だからだろうか。
何も分からないなかで、この感情が危険なのは間違いない。それでも、僕自身がその中に没入していくのを抑えられなかった。
一卵性双生児が感じる特有のシンパシーというべきものが、この集団を貫いている。そして、その中に僕も所属しているのだという、見た目上の事実が、僕を安心させている。
それはとても心地よかった。

彼らに連れられ、様々な場所に足を運んだ。
この村は、周囲を高い生垣で区切られたかなり正確な正方形の敷地をしている。広さは一遍が数キロ。その敷地内に、自給自足のためのあらゆるものが揃っていた。
そして、そのあらゆる施設で、僕は適正を探すために、実際の作業に従事した。
炊事場では料理を、洗濯場では洗物を、農場では農業を、織り場では織物を。
彼らは、早く最適なゆらぎを見つけられるといいな、といったが、それは結局見つからなかった。
正確ではない表現だが、あらゆる場所を回った結論は、それと相違なかった。
要するに、適正がありすぎたのだ。どんな作業場でも、望まれる以上の適正を発揮した結果、所属を決めかねるという結果がもたらされたのだ。

「驚いたな。全体を回れば大抵得意不得意は見つかるものなんだけどね。」

「ま、不味かったですかね?」

身体能力でも手先の器用さでも、求められる以上を実現していまったが故に、所属を決めかねている。
どんな集団でも付きまとう問題。出る杭は打たれる。優れた個は醜い感情に足を引っ張られる。そうした常の法則が、頭にもたげてくる。
自分の能力に、自分自身も驚きを隠せなかった。何でもできるという感覚が気持ちよく、彼らの驚く顔もまた、行動を助長した。
思う存分に力を発揮した先を想像もせず、僕はやらかしてしまったのかもしれない。
妬み、嫉みで彼らの無邪気な表情が消え失せるのが、やりきった後で今更ながら怖かった。
うんうんと思案した後で、彼らの一人が口を開いた。

「参ったな、これじゃどこに行ってもらっても問題なさ過ぎる。」

「そうだな、こんなのは初めてだ。」

等と、僕の懊悩を他所に、様々に感嘆の声が上がる。
能力的に優れる人間を疎外する空気はなかった。純粋に、配置に迷う彼らからは、無垢な子どもの美しさと、分け隔てのない気高さを感じた。
無論、仮に劣るものであっても、排斥しないであろうという確信があった。どうかしているかもしれないが、そう信じられた。

結局、持ち回りで色々な仕事を回ることで落ち着いた。日によって人手の足りない部署は異なる。
雨が降れば洗い場に、肉体労働が過酷な日には現場や炊事場に、といった具合に。
決着が付いたところで、気になっていたことをたずねた。

「O様、とは会えないんだろうか?」

造物主に直接謁見する、というのは思いあがりかもしれない。しかし、伝承の神ではなく、実在が明言されている存在なのだから、会ってみたい。
この楽園を築いた人物というだけでも、会って拝謁したい気分が沸いてくる。
はっきりとはしないが、自分の中にあるイメージでは、世界はもっと過酷で、残酷なものだと感じられる。
多少の違和感や不気味さは感じられるが、この村に流れる空気は、僕のイメージする世界の酷薄さからは隔絶されたものが感じられた。
その世界を、礼賛したい。心からの要求だった。

「あぁ、そのことなら、もうしばらく待ってくれ。誰しも、生まれた時には、祝われるべきだ、というのがO様の考えなんだ。今はその準備中なのさ。」

「祝い?」

「あぁ、僕も受けたよ。」

一生に一度、誕生の時を祝われる、素晴らしい儀式だと彼は言う。
加えて、こんなに準備に手間取るのは珍しいけどね、とも。

祝いの準備を待つ間に、数日が経過した。
日によって様々な部署を回り、色々な仕事をこなした。
平穏な日常。その日常が変化したのは、僕が、温浴施設の職務に従事した日だった。というか、思い返せば、その日が契機だったのだろう。
無論、日常の業務は恙無くこなした。問題はその後だ。
いつもは、それでも末弟であるという自覚から、風呂は最後に一人で利用していた。しかしその日は、兄達から誘われて裸の付き合いをした。
一日の最後の入浴ということが、思いあがりであるという気づきからの行為でもある。最後に入っていたつもりではあるが、温浴担当は、その後に入浴していたのを知ったが故のことでもある。
彼らは、最後ゆえに、思い思いに湯を炊き、常の兄弟よりも熱い湯につかるのを好む。
湿気と熱さに強い適正がそうさせるのだろう。
彼らはこの仕事の特権だと快活に笑い、湯浴みを楽しんでいる。
それならばと僕も身体を洗い、湯につかろうとした。
はたと何かに気づいた兄の一人が眼鏡を取りに脱衣所に戻り、そして僕をまじまじと見た。
その顔には驚愕が浮かんでいた。そして次々に他の兄達も彼の眼鏡を借りて僕を見た。
なんだろうかと思いながらも、特別に聞きまわることはせず、その日は格別に熱い湯に浸かり、そして眠った。

兄弟の妙に余所余所しい態度に気づいたのは、翌日からだった。
それまでの日々とは違い、僕は、どの職場においても遠巻きに見られ、声も掛けられなくなった。
僕の顔を見るなり、露骨に眉根を寄せ、或いは舌打ちをするものすらいた。
幾分かは我慢したが、それも限界になり、兄弟に尋ねた。

「僕が何かしたんだろうか?気に触ったなら、償いをしたい。」

心からの言葉だ。この村には、兄弟というたった一つの共同体しか存在しない。
その一つの集団から零れ落ちるなら、それは狭い世界にたった一人になるということとほぼ同義だ。
心地よい平等な世界から見捨てられる。確かな自己を持たない僕には、その事実こそが恐ろしかった。
しかし、誰に尋ねても、兄弟の心変わりのはっきりとした原因はつかめなかった。誰しもが、僕に抱く感情を処理できないという様子で、何でもないと、それだけ告げて目を逸らした。
疑問は募るばかりで、答えはない。
誰に尋ねても?違う。まだ尋ねていない人物がいた。

そう、Oだ。

誰もOの居場所について答えてくれなかった。というよりも僕の言葉を聞こうともしてない様子だった。
だが、Oの居場所は直ぐに分かった。村での生活で、一度も足を踏み入れていない場所に向かえば、それがすなわちOの居場所だ。
職務を放棄して自分の欲求を満たそうとする行為に若干の引け目を感じたが、どの道このままではまともな仕事は期待できない。そう自分に言い聞かせて思いつくままに足を進めた。
向かうのは日々の職務の中で一度も立ち入ったことのない場所。村のはずれ、外界と村を仕切る生垣に、一つだけ開いたの小道。僕はその中に足を向けた。
緑に囲まれた小道をしばらく歩くと、急に視界が開けた。高い生垣が空を仕切ることも出来ないほどに広大な敷地が眼前に現れ、そしてその中心に、敷地に見合う大きな屋敷が鎮座していた。
Oの居城であるのは間違いないだろう。
大きな屋敷ではあるが、人気はない。
つい先日までの村の中では感じなかった余所余所しさ、排他的な空気をどことなく感じる。
それでも進まなければ。分厚く重い扉を押しやり、館に乗り込んだ。

中は案の定薄暗い。ホコリっぽいとか湿っぽいとかはないが、どうにも陰気臭い。
広いはずの通路は四方から僕を圧迫しているように感じる。今にも曲がり角から幽鬼が顔を覗かせるのでは、などと陳腐かつ有り得ない妄想が頭を過ぎる。
がりがりと頭を掻き毟り妄想の不法占拠を取り払い、足を進めた。
Oが何処にいるのか。心当たりはまるでないが、それでも足はするすると進み、巨大な館の最上階に辿り着いた。
そのフロアの最も大きく、殊更に分厚い扉が眼前に現れる。ここだ。そう僕は確信する。
造物主であるOと被造物である僕の間に、何か繋がりがあるのかもしれない。
意を決し、扉に手をかける。
手入れの行き届いた蝶番は軋みもせず驚くほど手ごたえなく扉は開いた。

「おや、主を訪ねるのにノックも挨拶もないとは、私の子とは思えない無作法さだな。」

広い部屋の奥、館で唯一薄明るい、紗幕の引かれた窓際。安楽椅子を揺すり、横顔の男がそういった。

「あなたが、Oですね。」

「無作法に無作法を重ねるなよ。」

僕の質問には答えず、こちらに目を向けることすらせず、男は言った。
男の言い分は最もだが、ここで呑まれてしまえば、勢い込んで館に乗り込んだ僕の決意が鈍る。
そう感じて、僕は繰り返す。

「あなたが、Oですね。」

頭をがしがしと乱暴に掻き、男はついにこちらを見やる。

「いかにも。」

両手を広げ、胸をはり、芝居がかった所作で肯定する。
しつこい僕に根負けしたというよりも、子どもをからかってやろうというような態度に感じられた。
こちらを向き、はっきりと見えた顔は、この村の男達によく似ていた。
違う点を挙げるとするなら、彼はこの村の住人や僕と比べると、幾分か年嵩であるということだ。
髪に白いものが混じり、また目じりには、本来よく笑うのであろう、細かいしわが刻まれている。

「O。この村を作りだしたあなたなら、分かるはずだ。」

「何故、急に昨日まで親愛なる兄弟であった村民が、お前を遠ざけるか、かな?」

僕の問いも、今日僕がここに足を運ぶであろうことすら彼の目論見通りであるかのように感じられる。
空恐ろしいが、そこまで思いのままであるなら、問いの答えには期待できる。

「よろしい。ではこれが答えだ。」

言って、Oはベルトを外し、下半身を空気に晒した。
異常な行為自体にうろたえ、後ずさってしまうが、何故か目を背けてはならないように思い、そこを見てしまう。
何かおかしなものが付いているわけではない。その間逆。そこにはつるりと何もなかった。
僕は唖然とした。
僕の反応がよほど滑稽だったのか、Oは喉を鳴らして笑った。
ひとしきり笑って、ふぅと息をつくと、Oは僕をじとりと睨んだ。

「そうだ。俺は欠けた身体を十全なものにしたい。それだけだ。」

苦労したよとOは言う。

「この身体を元に、男性器を備えたクローンを培養するのは骨が折れた。最初の百体ほどは、下半身がまともに形成されなかったくらいさ。」

じりじりと僕に歩み寄ってくる。陰惨な眼差しそのままに。

「形になってからも困難は続いた。豆粒みたいななりそこないを貼り付けた個体から小指の先レベルに至り、まともな形状、機能を備えた個体を生み出すまでに、実験体は六百を数えた。」

Oの発する威圧感にすくみ、身体が動かない。

「まともは方法では男性器の定着が望めなかったが故に遺伝子をランダムに変異させ、クローニングを施した。あいつらはゆらぎと呼んでいるそうだな。」

右手を開いては閉じ、Oは続ける。

「そして、千を優に越え、お前が生まれた。」

垂らした右腕が、僅かに地面に近づいた。腕が伸びている?
Oの姿が霞むと、次の瞬間には、僕のズボンが切り裂かれていた。
引き千切るでも破るでもなく、鋭利な刃物で切りつけられたようなきれいな切り口。
Oがひけらかす右手の指先は、硬質の鉤爪状に変化していた。人、じゃない?!

「お前のそれを見て、お前の兄達は狂ったんだろうよ。」

それ?僕の股間には当たり前のように男性器がぶら下がっている。
確かに思えば僕のは彼らのよりも幾分か大きい、しかしそんな些細な違いで…。

「これ?こんなもののために、僕は疎外されたっていうのか?」

僕の言葉を聞き、Oは突沸した。

「こんなもの、だぁ?そうだよ、こんなもののために千を越えるクローンを生み出し、実験を繰り返した。」

怒っているような、泣いているような顔で叫ぶO。最初の余裕綽綽たる姿はどこにもない。

「お前は俺の因子からすればバグもいいところだ。だが、異常を持って獲得した形質だ。お前がそんな程度にしか感じていないというなら…。」

金属を擦り合わせるような硬質な音と共に、Oの身体が膨らむ。
右肩を中心に肥大化し、全身にキチン質様の甲殻が形成される。
肩の甲殻から黒い紗幕が下り、音が止んだ。現れた姿は、どこか歪な道化師に似ていた。
僅かに人の面影を残す口元から、咆哮。

「要らないっていうなら、俺が貰ってやるよ!」

瞬間、肌が粟立ち、全身を恐怖が包んだ。咄嗟に身をかがめると、一瞬前まで僕の顔があった位置を光弾が通過。背後の壁が軋み、破砕される。

「おっと、つい力が入っちまった。でも首から下が無事なら俺の頭をそこに移植するくらい簡単簡単。安心して死んでくれや。」

その後はもう滅茶苦茶。
黒い帯が乱れ飛び壁が切り裂かれ、光弾が、溶解液が調度品をガラクタに変えた。
直ぐに仕留める気ならとっくの昔にお陀仏だろう。それでも生きていられるのは、Oの僕に対する怒りや憎しみからの憂さ晴らしを兼ねているからだろう。
正確には僕の男性器、だろうけど。
不思議なのは、異形と化したOをみても、不思議と異常に感じないことだ。どこかで知っている気がする。
そして、勘違いかも知れないが、あれをどうすればいいかも何となく浮かんでいる。

破壊の律動から逃れながら、脳の奥と下腹部に力を込める。
身体の中に流れる力を感じながら、それを練り上げていく。身体の内部から高まる力の波動を感じてか、Oの遊び半分の態度が改まった。
しかし、身体から溢れる力に後押しされる僕の動きが、徐々に破壊の包囲から逃れていく。
余裕が出てくると感じられるのは、何処となくぎこちない様子のOだった。左右非対称で、大きすぎる右半身が動作を遅らせている。
付け入るなら、ここ!
光弾を放つ一瞬の硬直を見逃さず、懐に潜り込む。
体内で練った力を細く縒り合わせ、水晶体を用いて収束、そして解放。
一筋の光明が走り、Oの道化帽に似た頭部を削る。

「ちと肝を冷やしたが、浅い!」

長い腕を折りたたんで半径の小さな鉤爪の円周軌道を放つO。
背筋を逸らし、胸を薄く切らせながら回避。Oは追撃の光弾を放つために肩をぐんと前に突き出したが、僕の狙いはこの一点!
力を込めた左腕を撓らせ、光弾の射出口である肩の斑点を押さえ込む。
接触点に衝撃が走り、弾き飛ばされた。転がりながら穴だらけの壁に激突し、息が詰まる。
しかし、倒れ付す僕に追撃はやってこない。
Oは、肩口を押さえ、その場に立ち尽くしていた。

「なるほど、暴発、か。」

肩の装甲がぱりぱりと音を立てて剥離し、ついで腕、頭と元の姿に戻っていく。
変形が解けると同時に、どちゃりとOの右腕が床に転がる。

「お前がその身体を喜ぶのなら、お前に俺の地位を譲り、隠居するのもいいと思っていた。」

はぁ、と深いため息をついてOは続ける。

「だが、やはり持って生まれた人間は、認識が持たざるものとは違うな。」

押さえた肩口からは間欠的に血が溢れている。

「そしてやはりものが違う。」

持ってる奴は違うわな、とぽつりと声を洩らした。
最初に会ったときのように、芝居がかった動作で腕を広げ、僕に向き直るO。
押さえるのを止めた肩の断面からいよいよ激しく血が噴出している。

「俺がお前に出来ることはなんもないし、なんもする気ねぇ。どの道長くないだろうしな。」

「そ、そんな。」

いきなり殺しにかかったとは言え、自分の産みの親を殺めるという事実に震えそうになる。

「んな顔すんな。お前は自分のことを押し通すエゴイスト。俺みたいなことやる素養はあるぜ。」

明け透けなOの言葉にどきりとする。そうだ。僕は自分の思いのままにならないからとここを不信がり、Oを訪ね、そして殺した。
周りの豹変が悪いと決めつけていた節がある。話しにならなかったのではない、話をしなかったんじゃないのか。
呆然とする僕にOが続ける。

「ここを支配するもよし、ここを出て行くもよし。好きにしろよ。」

からかうような笑顔を一瞬浮かべ、Oはその場に崩れ落ちた。柔らかに見えた体組織も、甲殻と同じようにぱりぱりと亀裂を生じ、そして血だけを残し、嘘のようにその場から消えた。
血溜まりを一瞥し、産みの親であるOに最後の挨拶をする。

「それなら、俺は好きにするよ。じゃあね。」

館を出て、そのまま真っ直ぐに村を覆う高い生垣に向かう。
ここを出るとOがいうくらいなのだから、この村以外の世界が待っているのだろう。
濃密な緑の仕切りの切れ目を探し、比較的密度の低い場所を強引に突破する。
視界が開けた先は、村の中とは打って変わって、無機質な平地が広がっている。雑草すら殆ど生えていないだだっ広い空間の先に、看板を見つけた。
看板を見ると、実験場Oという文字が刻まれている。じっけんじょう、オー。

看板を越えた先には、また無機質な平地が広がっている。その平地の中にまた看板。実験場Pの文字。
O、Oとはゼロではなかった?
こんなものが少なくとも16はある、のか。
看板の先には鉄条網が張り巡らされている。近寄ってみると、同じ顔の群れ。
肥大化した肉塊から四本の太い肉の柱が伸びている。いや、五本。四肢と同じく太く長い、あれは男性器か?
乱暴に捏ねた粘土の人形のような崩れたフォルムに、幾つも同じ顔が嵌っている。
その全てが、俺の顔だ。

俺は、絶叫した。








[PR]
by moeru_otoko | 2017-04-01 00:00 | 日常

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燃える男の暑苦しい日常
by moeru_otoko
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