燃える男の道


TM.Ver2018最果ての世界へ

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それからは、毎日が戦いだった。

Oの村を出た俺が最初に見た光景は、金網に囲まれた更地に近い実験場で、そこには無数の俺の顔を張り付けた肉塊が蠢いていた。
Oとはオリジンの頭文字でも数字のゼロを捩ったものでもなく、単なる通し番号的な記号だったのだ。
では自分のエゴでOを殺めた俺はどうする。決まっている。
優に数メートルはある金網だが、力を練り全身に巡らせた俺には何のことはない高さだ。一跳びにて障害をクリアし、肉塊共の群れに躍りかかった。



図体こそ大きいものの、動きも知能も鈍いらしく、近づき、攻撃を加えることは容易だった。
しかしその大きさがネック。こちらの攻撃は厚い肉の層に遮られ、反して向こうは痛みで体をよじるだけでも振られた肉柱に押しつぶされかねない。
そこで俺は思い至る。こういう時の定番だが、硬く握った拳を解き、全身を脱力。体側に垂らした腕を振り、弧を描く掌底を見舞った。
肉塊の表面に張り付いた顔の一つを強かに打ち付けると、水風船を突いたように肉塊に波紋が広がった。
一瞬の身震いの後、顔に最初から備わった穴から鮮血を噴出させ、肉塊は地面へと倒れ伏した。
力を点でなく面で伝え、波打たせる。ぶっつけだが上々だ。
それからは効率よく肉塊を処理していくだけだった。



ものの数十分で極めて効率的にことは済んだ。
動かない肉塊の群れをかき分けて進むと更地の中央に、取って付けたような倉庫めいた建築物が現れた。
動くものはもう俺だけとなった実験場では、進むべきはそこしかない。意を決して扉に手をかけると、何の抵抗もなく開いた。
狭い倉庫には埃が舞うだけでなにもない、いや床に取っ手があり、地下への入り口があった。
地下への入り口を更に意を決して開くと同時に俺は息を呑んだ。扉の向こう、地下のスペースの広さはどれほどだろうか。
どれほど広いかはあまり関係ないか。なんせ入れないのだから。
扉から除く光景は、みっちりと詰まった肉塊である。その正面の顔の口が蠕動し始める。呆気にとられて硬直していた俺だが、何かの兆候にハッとなり距離を取った。
口が開かれ、そこからは、また俺の顔を張り付けた肉塊、それも幾分小ぶりなものが排出された。
産声を上げる間もなく小ぶりな肉塊に掌底をくれてやり殺害しつつ、おそらくこの実験場におけるO、すなわちPがこの地下に埋まる全容すら知れぬ肉塊なのだろう。
Oが男性の象徴に極端に拘ったように、これにも何かの拘り、執着、妄執があるはずだ。
今は動かなくなった肉塊の姿をよくよく見る。見て、気づいた。そうか。Pも、拘っているのは同じだった。
思えば上で徘徊していた肉塊も四肢ではなく五肢を備えていた。手足と、男性器だったのだ、あれは。
その技術をP本体に導入した結果が、このいびつなPの姿であり実験場Pの現状なのだろう。
おかしく、そして恐ろしい。その妄執が恐ろしい。
とはいえ、その妄執も結実したとはいいがたいのが、滑稽である。
防衛のために五肢を振りかざす肉塊共に頸力を送り込む際に違和感を覚えた。
頸力を通さないものが五肢のうちに一本必ずあり、それは水分も肉もほとんど持たない角質の柱だった。手隙の間に調べてみたが、その柱は根元のごく僅かが柔らかく、全体のほとんどが踵のような角質で構成されていた。
五肢とはいうがその一本は、体を支持する役割も持たないぶら下がった状態のものである。
要するにこの一本というのは、これらの男性器に相当するものであり、この醜い姿と引き換えに得たものは、結局は張りぼてに過ぎなかったというわけだ。
しかし、考えるだに世界はおかしい。Oが意図的に不完全なクローニングを試行回数を増やすことで俺を作り出したように、Pは一つの個体では補えない男性器の質量を、複数個体を連結させることで増大させる方法を取ったというわけだ。
着想は異なるが、2つの実験場に共通する男根への強い執着。理解を超えた空恐ろしさを感じた。



俺が扉を開いたことに気付いているのかいないのか、変わらずに脈動を続けるPに向かって掌底を振りかざし、打擲。しかし質量が大きすぎ、力、勁が通らない。
というか通っていても効果をなさない。
このままでは何百発と打ち込む過程で俺が参ってしまう。
力の跳ね返りで痺れる我が手をちらりと見る。そして感じる違和感。数十分間絶え間なく頸力が注がれた右の手のひらに、キチン質の甲殻が生成されていたのだ。
狼狽えはしたが、自分の持つOの因子が戦いの中で顕現したのだろうとすぐに思い至る。
その高質化した右掌から感じる力は生身のそれとは段違いだ。右手に頸力を注ぎ込む。力を集中するイメージでだ。
程なくして、Oの肥大化した半身、とはいかないまでも、肩口まで甲虫めいた装甲が形成される。もとより俺に備わった機能なのだろう。不思議なほどにその使途が分かる。
脳裏に浮かび上がってくる。
研ぎ澄まされた刃物のように鋭利な手刀を戸口から覗くPの表面に打ち込む。掌底をたやすく跳ね返した弾性を優に乗り越え、俺の腕は上腕まで一気に埋まりこんだ。
そこから先は簡単だった。Oがそうしたように、手首から溶解液を流し込む。俺の打擲に平然としていたPがまさに地を揺るがさんばかりの鳴動と絶叫を上げ、それは小一時間ほども続いた。
地下にすっぽりと埋まりこんだPには明確な反撃手段などあるはずもなく、叫び声とともにグズグズと崩れ陥没していった。
崩れていくPから俺の腕が抜けても、俺は溶解液の分泌を止めなかった。
ブスブスと不快な悪臭を伴う煙を吹き上げる肉塊が、叫びも震えもしなくなるまで溶解液を垂れ流した上で、俺はその作業を切り上げて地上へと戻った。



思えば碌に反撃もしない肉塊に対して、ずいぶんな仕打ちであるようにも感じられた。
しかし、腹の底には、謎の満足感がある。動くもののなくなった実験場Pに背を向けて進む足取りは、しかし意外にも軽やかだった。
Oが持たざる者と持って生まれた者とを対比したように、俺以外の存在は、Oが自称する持たざる者なのかもしれない。
そしてPの如き醜悪なものを、いや優れた男性の象徴を持って生まれた俺は、持たない者を認められないのかも知れない。
不可抗力とはいえ目標もなくOを殺め、そして意味もなくPをも滅した。
この胸を満たす満足感は、極めて排他的で危険かもしれない。
しかしこの世界に何の拠り所もない俺は、結局この感覚に身を委ねていくのである。



それから先は急転直下に進行する。眼前に現れる実験場を片っ端から襲撃し、そして滅亡させていった。
ある実験場は、猛獣と俺を掛け合わせていたようだ。
ある実験場は、遺伝子操作で全身を延長していたようだ。
ある実験場は、精巧な機械の体に乗り換えていたようだ。
ある実験場は、鉱物のような無機物を体に取り込み体を補強していたようだ。
ある実験場は、Pとは逆に多肢、多頭を持つ連結体の研究を行っていたようだ。
過程は異なるが、それら実験場に共通するのは2点。
男性器の伸長、拡大という分野では大失敗を喫していたということと、俺に滅ぼされたということだ。
Pからはじまり、Q、R、S、…と進み、俺はZ実験場へとたどり着いた。Z実験場の奥にある地形は薄暗く、杳としてしれない。どことなく、世界の果てを連想させた。



足を踏み入れたZ実験場の異質な光景に、俺は違和感を覚えた。
一般的な民家が立ち並ぶそこは、今までの実験場めいた空間とは様相を異にしていた。
まっすぐな道の左右に家が並び、その道の果てに、ひと際大きな建造物が聳え立っている。
見たことはないが、知識にはある。あれは寺院だ。
寺院を中心に並ぶ家々の間、黒くゆったりとした衣服を纏う男たちが和やかに談笑している。その顔をみて、俺ははっとなった。
Z実験場には俺と違う顔の人間が闊歩していた。
いや、部分部分は似ているが、輪郭が異なる個体、俺と同じ輪郭にやたら精悍なパーツが当てはめられた個体など、似通った特徴を持つが俺とは一致しない者がそこかしこにいたのだった。
そして俺は、この実験場で俺が行使する力の本質を知ることとなった。



俺は、他の実験場と同じように唐突に乗り込み、唐突に襲った。
他の実験場ではこの手が単純かつ効果的だったからだ。実験場はお互いに不可侵かつ無関心。他者の介入などなかったのだと考えられる。
かりに繋がりがあったとして、それを利用できるような知識、意識を持っていたものは結局O以外に存在しなかった。
そこに侵入した俺が問答無用の先制攻撃で全体を浮足立たせるだけで有利だったわけだ。
しかし俺と異なる顔を持つ集団は、他の実験場とは異なり、他者というものを認識、理解しているようだった。
俺を見たZの住人は俺をいぶかし気な視線で迎えた。違和感を覚えつつも、俺は笑顔を浮かべ、挨拶をしながら、手始めに一番近くにいた相手に力を込めて左腕を振るった。
それと同時に、後ろ手に隠した右手は手首まで装甲を纏わせてある。
実験場を渡り歩いた俺はハードターゲットを頸で、ソフトターゲットを甲殻で仕留める常套手段を構築していた。
頸力が通ればそれでよし。防がれ、いなされたならもう一方の手段で封殺するシンプルだが確実な戦闘法だ。
しかしこの相手は違った。まるでこうした事態を想定しているかのように対応してきたのだ。
そいつは、出し抜けに繰り出した俺の腕を無造作に払いつつ込められた力を同様の力で相殺してきた。
それだけでなく、逆の手で同様の打撃を繰り出してきたのだった。
咄嗟に右の掌で受けるが、込められた力の持つ振動でいとも簡単に表面が砕かれ、生身の髄まで染みわたる力の振動を自身で初めて味わうこととなった。

「ほう、ホウリキを放ち、かつホウリキを受けて尚踏みとどまるか。」

口を開いたそいつはホウリキと言った。ホウリキ、脳裏に瞬時にその字面が浮かび上がる。法力、それがこの力か!
俺の脳髄の底に予め彫り込まれていたようにしっくりくるその語感。なぜだか違和感なく受け入れることができた。
俺自身、その名も知らず無軌道に振るっていた法力。連中は、その力を意識的に磨き、練り上げてきたというわけか。
Oを殺めたあの日以来初めて、俺の頬に冷や汗が浮かぶ。
踏みとどまる、とは言われたが、初めて自身を焼く法力の衝撃に頽れる寸前だった。全力投球を繰り返した投手の如く腕中の毛細血管がはじけ飛び、重苦しく熱い。
疼く右手に引きずられ重くなり始める右半身を内心で叱咤しつつ距離を取る。
荒事も想定している生活なのか、どよめきつつも、異分子である俺を緩やかに包囲する男達。想定してはいるものの、不慣れであるためか、そこから飛び出せずにいる。
包囲した上で即座に圧殺されない幸運に感謝した。その猶予のうちに、俺は呼吸を整えつつ、硬質化のプロセスを全身で推し進める。度重なる戦い、時に一方的な虐殺の中で、自分の持つ能力の発揮の仕方を学んでいたのだ。Oの如き不完全な変身でなく、体全体を均等に変異されることが、俺には出来た。
法力を扱うもの達の包囲陣の中で全身を硬化させる最中に、ふと強烈な既視感に襲われた。
同じシチュエーションを、俺は体験している?
俺のベースとなったOの記憶でもないだろう、もっと遠い何かを感じた。
しかし物思いに耽る時間はない。全身を甲殻に包む俺にZの男達も緊張を高めている。奴らの全身から立ち上る気迫と法力に周囲の風景すら歪んで見えるような錯覚を覚えた。
拮抗状態が破られようとしていた。



全身をキチン質の鎧に覆った俺は、大型化したヒラタクワガタの如く、常とは異なる独特の戦闘形態へと変化する。湾曲する涙滴のような分厚い肩には黒点の砲口を備え、その周囲からはビロードのような滑らかな外套が形成される。
そして肩部と同様の分厚く、そして鋭い嘴と道化帽の如き角を有する兜が生成され、俺の額を覆った。
この形態になれば、多少の傷はふさがる。ようやくこの鍛え上げられた集団と事を構える準備が整った。
これで、戦える。
出し抜けに俺は肩の砲口から力を打ち出した。法力にも似た光弾が走り、最初に対面した男の眼前に迫る。
両の腕で弧を描きつつ男が光弾をいなす。無傷とはいかないが、極めて安全に俺の初撃に対処して見せた。
この砲撃をきっかけに周囲の男が俺に殺到する。俺の脳裏に、死の一文字が去来した。



後半へ続く
[PR]
by moeru_otoko | 2018-04-01 00:00 | 日常

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燃える男の暑苦しい日常
by moeru_otoko
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